北の核の脅威はどんなものなのか – 想定被害と対処

 北朝鮮の核ミサイル想定デマ(首都圏壊滅レベルの被害が出ると言うデマ)のニュースを見ていて、実際どれくらいの影響範囲があるか考えてみた。
 前回の北の核実験は10kT程度の出力で、弾道弾での投射可能なサイズに収まったと報道されていた。 北から爆撃機で輸送するのは高確率で迎撃できるので、現実的に日本に打ち込む手段は弾道弾による投射しか無いから、現状はこの10kT程度の核弾頭しか使用来ないと思われる。

 10kTの核爆弾を適切な高度で爆発させた場合(核爆弾の被害最大化のためには地面で爆発させず、適当な高さで爆発させる必要がある)、最近のしっかりした鉄筋コンクリート建造物の破壊範囲はせいぜい半径500m程度になる(この範囲では人間もほぼ即死) 木造建築では4kmくらい、爆発による熱線でのやけども木造建築と同じくらいの範囲で発生する。
 適当な指標としては山手線の一周が34kmくらいなんで、これが真円なら半径5km強あるんで、山手線の中心で炸裂したら、即時影響のある範囲は山手線の中に収まる程度。 この範囲でも、J-Alertが上手く機能して頑丈な建造物や地下鉄へ避難すればかなりの被害低減が可能である。

 その後、放射性降下物による被害に対応しなければならない。 それは、爆発の直接放射線は一時症状が中心で、範囲は限定的、かつ事前避難による回避をしていなければ対応は困難で殆ど運任せに近い。
 しかし、爆発後の放射性降下物は非常に広範囲に渡り、この降下物は体内に蓄積して長期的な影響を生むため、大きな被害を生む反面、正しい行動でかなりの対処が可能である。 このため、爆発被害に続く降下物対策が非常に重要である(10kTの核爆発でも放射性降下物は風に乗って200km、あるいはそれ以上の範囲に移動し、これは東京から西なら静岡市、北なら栃木・福島県境に至る膨大な範囲で、風向き次第で関東一円はほぼ覆われる)
 放射性チリ(爆発粉塵)については粒子が大きいこともあり最近良く売っているN95マスクなどの適切な使用である程度緩和することができるが、崩壊過程で生じた放射性ヨウ素などの物質は専用フィルタでないと対応できないため、中心付近や近隣の風下では密閉性の高い建造物において屋外の濃度が低下するまでとどまる、離れた風下方向で避難が可能な地域なら避難する(気象状況によるが1時間で数十キロを移動するため、交通の混乱下では風下方向での避難は難しいため、目張りをした屋内でマスクなどを着用して避難するのがベター)それ以外の風上や側方ではただちに風上方向に避難するなどの方法が取れる。 また、避難時にはマスク以外に雨合羽のようなものの着用も放射性物質の体への付着を防ぐことができて効果がある(降下範囲を離れたら脱いでビニール袋に密閉して廃棄することで、付着物で継続的に被爆するのを防ぎ、マスクを外した時に吸入するのを防ぎ、かつ降下物の拡散も防げる)
 これは、自衛隊などはNBC影響区域からの離脱時にシャワーで洗浄を必ず行うが、広域での被害時にはこの対応が間に合わないことが予想されるため、雨合羽等である程度の緩和を期待するわけである。
 また、当然のことであるが、降下物混入の危険がある時は飲食は控える。 降下が始まれば水道水にも混入するため、屋内避難範囲では、早い段階で水をくみ置きして置くのが良い。

 なお、核が多くの関心を集めているが、生物化学剤の保有も予想されており、これらの対応も重要になるだろうと思います。
 先日、マレーシアで使用されたVXやシリアで使用されたサリン等。
 これらは、専用のマスクと保護着等がないと生存が難しいが、弾着中心地から離れていれば、石鹸水に浸したマスクとビニール雨合羽などで多少緩和することができる(これら化学剤は皮膚吸収でも致死性があるが、呼吸に比べれば遥かに高耐性であるため直接薬剤に触れたりしなければ即アウトとはならない。 それ故前提として薬剤に触れていなければ、第一に呼吸器の保護、第二に身体の保護、第三に風上への離脱という一般的な避難で問題ない)
※サリンの除染には塩基性水溶液が用いられるため、身近な塩基性水溶液である石鹸水を含ませたマスクによりフィルタ中で多少の分解が期待される。 また、避難後には石鹸で体をよく洗うのも皮膚に付着した物の吸収を抑える効果が期待される。 いずれにしても、昔ながらの水酸化ナトリウムで作った石鹸の塩基に期待される効果なので、最近のお肌に優しい弱酸性は役に立たないので、一家に一個、昔ながらの石鹸はあったほうが良いかもしれない。

サリンの毒性
 0.064ppm(1立方メートルあたり0.38mg)のサリンが存在する環境に10分とどまると成人の半数が死亡するとされている。
 呼吸は1回に0.5リットル程度、1分間の呼吸回数は約20回なので、この条件では0.1立方メートルを吸収しているので、呼吸器からの摂取量は0.038mgで致死量と言うこと(すべて吸収したとしても)
 これに対し、皮膚のみでは1500mg強で成人半数致死ということで、影響の度合いは桁違い。

適切な保護具の性能
 米軍のC2A1ガスマスクフィルタにおいては、4000mg/m3と言う弾着地点近傍レベルの濃度において1時間とどまっても透過するサリンは0.04mg/m3未満が保証されている。 0.04mg/m3の濃度に1時間では後遺症が発生する可能性はあれど、致死率は非常に低く、その濃度で半数が致死に至るには12時間位あるので、落ち着いて避難すれば全く問題ないレベル。